私がかつて住んでいたT市は東部に広大な山間部を抱えており、そこには人口減少の末に無人となった集落が点在している。

かつては養蚕が盛んな地域だったためか、無人集落のいくつかには立派な屋敷が残っていて、なかには怪しげな宗教団体が買い上げて宗教施設にしていたり、どこかの金持ちの別荘になっていたものもあったようだ。

こうした集落跡で起こる出来事は、地元の住民にとっては噂の恰好の的だった。中でもK集落の屋敷は実際に謎が多かったようで、私も当時様々な噂を耳にしたものだ。
断片的な噂話をつなぎ合わせると、大筋では以下のような内容だったと記憶している。

・K集落の屋敷には、引退した資産家が住んでいる
・その屋敷では、定期的に使用人を募集していて、妙齢の美しい女性が住み込みで採用される
・使用人は仕事でミスをすると屋敷の主人から叱責され、罰を与えられる
・罰は次第にエスカレートしていき、ささいなミスでも拷問めいた罰が与えられるようになる
・耐えかねて逃げ出そうとして捕まると、以後は独房のような地下室で鎖に繋がれる
この噂、いかにも荒唐無稽で、ほとんどの人は大して信じてもいなかったのだが、ある日その状況が一変した。「K集落の屋敷で撮られた」とされる大量の写真が、どこからともなく出回りはじめたのだ。その写真には、美しい女性が監禁され拷問を受けているシーンが確かに写っていた。

この写真の登場で、荒唐無稽な噂話は一気に真実味を帯び、警察が家宅捜索に入ったとか、屋敷の主人が近々逮捕されるというような噂が新たに飛び交った。ただ、その後は新しい情報が流れることはなく、しばらくすると誰もこの話題を口にしなくなり、数ヶ月後には他の多くの噂と同じように忘れられた。
今に至るまで、私はこの噂話の真実や結末を知らない。
しかし、私はこのときに出回った写真を捨てることができず、今も隠し持っている。


※ この物語と写真は、一部をのぞいてフィクションです。

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